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2019年06月12日

〝一気通貫〟に新たな壁 賃貸契約の電子書面化へ 国交省 7月に社会実験のガイドライン

 国土交通省による社会実験が始まる。賃貸仲介契約の手続きの容易性に〝壁〟となっていた宅建業法35条と37条の書面交付に代わる電子書面での手続きの可能性を検証する。入居申し込みから契約までの一連の手続きすべてが本格的に電子化される日も近い。7月に社会実験に伴うガイドラインが公表される。事業者の業務効率化や消費者の利便性の向上が期待されるが、新しい課題も見えてきたようだ  (坂元浩二)

 不動産取引の重要事項説明での対面原則を見直し、IT重説が本格運用されている賃貸取引で重要事項説明書等の電子交付の可否を3カ月間にわたり社会実験する。改ざんのリスクなどを確認するが、世界的に普及してほぼ確立した電子契約サービスの技術的側面よりも、「スムーズに手続きが進行するのかを主眼に検証する」(国交省不動産業課不動産業指導室)ようだ。

10月スタートへ

 国交省は7月にガイドラインを公表し、参加登録審査や説明会の準備期間を経て、10月にもスタートさせる見通しだ。今回の実験で重要事項説明書等については、電子書面に加えて、宅建士が記名押印した紙の書類も事前に送付する。ただし実験上の電子書面では宅建士ごとの電子署名は求めず、実験登録業者の電子署名を施したものを交付する。この署名の取り扱いは、本格運用を決める際に改めて検討されるようだ。

 導入は強制ではない。「社会の電子化の流れに新たに電子書面の選択肢を加え、手続きの間口を広げる」(不動産業指導室)のが狙いだ。実務の現場では、今回の実験をどう受け止めているのか。

実務では導入進む 業務効率化と利便性向上に

 実験を検証する国交省の検討会(座長=中川雅之日本大学教授)の資料では、電子契約サービスの事例に、クラウドにアップしたファイルをダウンロードする方法の一つで、弁護士ドットコム(東京都港区)が提供する「CloudSign」(クラウドサイン)を紹介している。

 「クラウドサイン」は、矢野経済研究所の調べで国内シェア1位で、電子契約と同時にカード決済ができるサービスも用意。今後は、電子書面の管理や分析機能を強化・実装する予定。

本格運用に期待感

 社会実験を前に、「クラウドサイン」を導入した渡辺住研(埼玉県富士見市)の中島秀和賃貸営業部部長代理は、「駐車場利用の契約時を手始めに、他社に先行して電子契約を活用していく」と積極的な姿勢で、「残業の軽減や、契約担当部門を省力化して別の生産的業務に配置転換できる」と、本格運用に期待を寄せる。同社は既に契約全体の8割でIT重説を行い、VR内見も実施しており、特に社内体制の変更もなく、スムーズに電子契約サービスを導入できる環境にあるようだ。

 検討会の資料ではもう一つ、電子メールで送信する方法の一つで、GMOクラウド(東京都渋谷区)が提供する「GMOAgree」(GMOアグリー)を紹介している。

 同社はグループ会社に電子認証局を持つのが強みで、「GMOアグリー」では、より厳格に本人性を担保する電子署名(現在の実印のイメージ)と、メールアドレスで本人確認する簡易な電子サイン(認印)の両方に対応している。

軽減される負担

 電子書面を事前に送付すれば、入居希望者は、紙の書類を持ち歩くことなく紛失のリスクも抑え、「スマートフォンやタブレット端末で、隙間の時間に確認し、疑問点を整理した上で重説を受けられる」(GMOクラウドの牛島直紀電子契約サービス推進室室長)という利点がある。入居希望者を店頭で長時間わずらわせる現状と比べれば、双方の負担も減りそうだ。

 「GMOアグリー」を2年前に、更新契約時から使い始めたエレマックス(東京都渋谷区)の宇井茂社長は、「情報の扱いで社会の目が厳しくなり、契約書類の一層の適正管理を意識したリスクヘッジと、何よりも消費者の利便性の向上が大切と考えた」ことから、当時、他社に先んじて導入を決めたという。

 更に、「管理戸数が増えれば、当然に契約業務や書類も増える。データで蓄積して整理できる点は、業務効率化に役立つ」という管理機能に着目した。以前に締結済みの紙の契約書類をスキャンして電子書面と共に一元管理でき、契約更新時期を知らせるアラートの通知機能も煩雑だった業務を簡易にしてくれた。これらの機能は、クラウドサインも用意している。

業務見直しの好機 電子契約で何を実現するのか

 好印象な電子契約の手続きだが、違う側面から、新たな課題も浮かび上がる。日本賃貸住宅管理協会の関連組織IT・シェアリング推進事業者協議会の有志で発足した「契約フローワーキンググループ」(契約WG)の廣瀬一寛部会長(ユーミーらいふグループの湘南らいふ管理取締役コンサルティング事業部部長)は、次のように指摘する。

 管理会社ごとに導入する電子契約サービスが違えば、「客付けの仲介会社は、乱立するそれぞれのシステムの操作方法を覚える負担が増える。慣れるまで現場は混乱する」。 管理会社側からも、「基幹システムと連動しづらい」ため情報の転記作業が発生し、業務効率化にならないとの声も上がる。ただ、この問題には、バックヤードの基幹システムと、イタンジ(東京都港区)などが提供するフロントの賃貸取引システムを別々に持てば解決するのでは、と廣瀬部会長は提言する。

 電子手続きの一気通貫には、「転記作業をなくす」(宇井社長)必要があり、契約WGでは保証会社への提出書類を含め、現状、各社で違う入居申込書の記載項目を統一化する共通フォーマットの作成を研究していく考えだ。

 電子手続きの〝一気通貫〟の言葉の響きはよいが、バラバラな状況もあるようだ。その解消には〝固定観念〟を捨ててシステムや仕組み、決まりごとを再考すること。実験を機に、「電子契約の導入検討で、業務なども見直すよい機会になるのではないか」と廣瀬部会長は強調する。

持つべき視点

 確かに、電子契約は、「消費者の求める利便性があり、導入により選ばれる店舗になれる」(弁護士ドットコムの橘大地クラウドサイン事業部長)。ただ、事業者側はそれで「何を解決したいのかを考える。その視点が抜け落ちてはいけない」(廣瀬部会長)。

 その導入には、不動産各社に温度差がある。消費者側も、オーナーを含めて高齢者などで電子手続きが苦手な人もいる。気になる行方の「電子書面交付を実現する法改正は、来年すぐというわけではない」(不動産業指導室)ため、即あすから劇的に変わるものではない。準備や覚悟の時間はまだある。

 様々な合意事項の場面でも使える電子契約サービスを業界として普及させるには、「成功事例を積み増し、裾野を広げていく」(廣瀬部会長)こと。その導入によって〝何を実現したいのか〟を考えた先に、それぞれの〝電子化〟があるのではないだろうか。

『住宅新報 2019年6月11日号より』