ADR(裁判外紛争解決手続)は裁判に比べて、簡易・低廉・柔軟さをもったトラブル解決が可能になるが、これは消費者のみならず、不動産・建築事業者にとっても有益な制度である。今回は、法務大臣認証ADR機関である日本不動産仲裁機構が災害が原因となって発生したトラブルのADR事例を紹介する。
最近では台風19号が日本列島に上陸、猛威を振るい、10月22日の時点で13都道府県で84人の死者を出す災害(報道機関調べ)となりました。台風の脅威のみならず、地震の発生等、日本は世界的に見ても災害が多い国として知られていますが、災害は人と人とのトラブルを引き起こしてしまうこともあります。例えば、11年3月11日に発生した東日本大震災においては、多くのADR事案が発生しました。中でも不動産に関する事案が多く発生しているのです。ここでは(1)入居者と賃貸オーナーのトラブル、(2)隣人同士のトラブルについて紹介していきます。
(1)入居者と賃貸オーナーのトラブルとしては、震災と原状回復に関する事例があります。入居者A氏の住む物件では、被災によって戸棚の開閉ができなくなり、使用不能となりました。また、お風呂に湯が張れなくなってしまったため、銭湯を利用することとなりました。幾度となくオーナーであるB氏に修理を依頼したのですが、B氏は被災した物件を数多く所有していたため、なかなかA氏の物件の修理をすることができず、結果的に修理が済むまでに7カ月を要しました。
この間、不便ながらもA氏は当該物件において生活ができていたのですが、やはり満額の賃料を払うことには抵抗があるとして、この7カ月間に支払った賃料の半額を返却するよう依頼をしたのですが、B氏がこれに応じなかったため、トラブルとなりました。ADRの話し合いの結果としては、A氏がB氏の修理対応遅れは仕方のない部分もあると理解を示したため、賃料の2割の返却を提案。B氏もそれを了承したため、和解となりました。
もう一つ、事例を紹介します。入居者であるC氏は、震災によって建物が被災してしまい、生活上の不便を感じたため、引っ越すことにしました。そして退去の際の立ち合い時のことです。オーナーであるD氏が提示した「C氏に原状回復費用を負担する義務がある箇所」について、震災によって損耗した箇所が含まれているのではないかとC氏が考えたため、トラブルになりました。この件のADRにおける話し合いの結果としては、震災による損耗箇所に関してはC氏の負担ではないとして、C氏の求めた敷金の返金額にB氏が応じる形になりました。
(2)隣人同士のトラブルでは、E氏とF氏は戸建て住宅に住む隣人同士でした。E氏の住宅には太陽光パネルが設置されていましたが、これが震災によって落ちてしまい、F氏の所有する自動車を破損させたのです。F氏はE氏に修理費用の全額負担を求めましたが、E氏は災害によるものだとこれを拒否したため、トラブルになりました。この件のADRにおける話し合いの結果としては、F氏が今後も続くE氏との隣人関係を大切にしたいが、せめて修理費用の半額を負担してほしいと提案。これをE氏が了承したため、和解が成立しました。
災害によって発生したトラブル解決は、「誰が悪いわけではない」ということが大前提としてあるため、互いの心情理解もしやすく、話し合いによる解決手段が適していると考えられます。『住宅新報 2019年10月24日号より』
ADR(裁判外紛争解決手続)は裁判に比べて、簡易・低廉・柔軟さをもったトラブル解決が可能になるが、これは消費者のみならず、不動産・建築事業者にとっても有益な制度である。今回は、法務大臣認証ADR機関である日本不動産仲裁機構が災害が原因となって発生したトラブルのADR事例を紹介する。
最近では台風19号が日本列島に上陸、猛威を振るい、10月22日の時点で13都道府県で84人の死者を出す災害(報道機関調べ)となりました。台風の脅威のみならず、地震の発生等、日本は世界的に見ても災害が多い国として知られていますが、災害は人と人とのトラブルを引き起こしてしまうこともあります。例えば、11年3月11日に発生した東日本大震災においては、多くのADR事案が発生しました。中でも不動産に関する事案が多く発生しているのです。ここでは(1)入居者と賃貸オーナーのトラブル、(2)隣人同士のトラブルについて紹介していきます。
(1)入居者と賃貸オーナーのトラブルとしては、震災と原状回復に関する事例があります。入居者A氏の住む物件では、被災によって戸棚の開閉ができなくなり、使用不能となりました。また、お風呂に湯が張れなくなってしまったため、銭湯を利用することとなりました。幾度となくオーナーであるB氏に修理を依頼したのですが、B氏は被災した物件を数多く所有していたため、なかなかA氏の物件の修理をすることができず、結果的に修理が済むまでに7カ月を要しました。
この間、不便ながらもA氏は当該物件において生活ができていたのですが、やはり満額の賃料を払うことには抵抗があるとして、この7カ月間に支払った賃料の半額を返却するよう依頼をしたのですが、B氏がこれに応じなかったため、トラブルとなりました。ADRの話し合いの結果としては、A氏がB氏の修理対応遅れは仕方のない部分もあると理解を示したため、賃料の2割の返却を提案。B氏もそれを了承したため、和解となりました。
もう一つ、事例を紹介します。入居者であるC氏は、震災によって建物が被災してしまい、生活上の不便を感じたため、引っ越すことにしました。そして退去の際の立ち合い時のことです。オーナーであるD氏が提示した「C氏に原状回復費用を負担する義務がある箇所」について、震災によって損耗した箇所が含まれているのではないかとC氏が考えたため、トラブルになりました。この件のADRにおける話し合いの結果としては、震災による損耗箇所に関してはC氏の負担ではないとして、C氏の求めた敷金の返金額にB氏が応じる形になりました。
(2)隣人同士のトラブルでは、E氏とF氏は戸建て住宅に住む隣人同士でした。E氏の住宅には太陽光パネルが設置されていましたが、これが震災によって落ちてしまい、F氏の所有する自動車を破損させたのです。F氏はE氏に修理費用の全額負担を求めましたが、E氏は災害によるものだとこれを拒否したため、トラブルになりました。この件のADRにおける話し合いの結果としては、F氏が今後も続くE氏との隣人関係を大切にしたいが、せめて修理費用の半額を負担してほしいと提案。これをE氏が了承したため、和解が成立しました。
災害によって発生したトラブル解決は、「誰が悪いわけではない」ということが大前提としてあるため、互いの心情理解もしやすく、話し合いによる解決手段が適していると考えられます。
『住宅新報 2019年10月24日号より』