コロナで変わる住まい選び 揺らぎ始めた「都心集中」|全国賃貸住宅新聞|業界ニュース|一般社団法人 投資不動産流通協会

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2020年08月26日

コロナで変わる住まい選び 揺らぎ始めた「都心集中」

新型コロナウイルスの感染拡大は「部屋探し」の場面でも常識を変えようとしている。これまで重視されてきた「都心部へのアクセスの良さ」という住まい選びの条件が、一部の層で必須ではなくなってきた。テレワークの継続やコロナ不況にともなう収入減を機に、郊外物件に「住みやすさ」「低賃料」などを求める人が現れ始めたからだ。まだ大きな傾向とは言えないが、こうした小さな変化の芽を捉える意味は大きい。部屋探しニーズの最前線を追う。


「出社は月1回」郊外へ引っ越し
■天極

 「郊外物件を求める相談が増えてきている」

 こう語るのは、管理戸数約7700戸の天極(埼玉県川越市)若葉店の島嵜太郎氏だ。新型コロナの影響で国内企業の在宅勤務が定着し、都内に住んでいる会社員が郊外エリアに引っ越す事例が、わずかに出始めた。

 6月上旬、島嵜氏が案内した会社員は、IT企業に勤める28歳の単身男性。都内の賃貸住宅に住んでいたが、案内から2週間程度で郊外エリアへの低家賃アパートに引っ越しを決めた。

 男性が契約した物件は、東武東上線「坂戸」駅にある築33年の1Kの6畳アパートだ。家賃は2万7000円。男性が以前借りていた物件の賃料よりも4万4000円も低い。住み替えで半値以下になった。

 男性が賃料の安い坂戸の物件を選んだ理由は、この先、コロナ不況で会社の給与やボーナスが減額するリスクを感じたためだ。会社でテレワークの継続が決まり、出社は月1~2回程度で済むようになった。無理して都心部に住み続ける必要性が薄れたことが、引っ越しを決めた理由となった。島嵜氏は「(男性は)収入面の不安を感じていた」と振り返る。

 また、坂戸駅は東武東上線の通勤快速、急行が停車する。そのため、「池袋」駅まで最短45分ほどで出られ、意外に出勤の利便性は悪くない。

 ただし、この傾向が大きなトレンドに変わるかは、まだわからない。似たような相談は同社に数件寄せられているものの成約率は低い。その理由を島嵜氏は「都心部と比べて、その人の条件にかなう物件が少ないからでは」と推測している。

不人気エリアで問い合わせ増加


■ジェントル

 物件選びの際に「都心部へのアクセスの良さ」から「室内での過ごしやすさ」に重きを置いて契約する事例も現れ始めている。

立地より快適さ重視

 それが、ジェントル(東京都世田谷区)がリノベーションした分譲賃貸マンションだ。同社は賃貸住宅向けのリノベーションから仲介までを手掛けている。

 西武新宿線「上井草」駅から徒歩7分、築年数は36年。新宿駅から電車で約30分の距離がある。同社の取り扱う物件の中では、成約が難しい「不人気エリア」に相当する。

 リノベーションを終え、募集をかけ始めたのが今年1月だ。そこから新型コロナウイルス問題が襲う3月上旬までの約2カ月間で、反響はあまりなかった。しかし緊急事態宣言が解除された5月、少しずつ部屋探し需要が戻り始めてきた。同月下旬を境に、問い合わせが増えた。

 5月下旬から6月上旬までの問い合わせ件数は計7件に至った。蒲谷宜治社長は「(問い合わせは)想定した件数よりも多い印象を受けた」と振り返る。

 2組目の案内で無事成約した。成約したのは40代の公務員の夫婦だ。古さを格好よくみせるビンテージ風のデザインや、カウンターキッチンを設置した広々としたダイニングが、夫婦の関心を引いたという。

 蒲谷社長は「コロナでリモートワークが定着した結果、職場への近さよりも、物件自体のデザインや住みやすさに重きを置く傾向がでてきたのでは」と推測する。

 同物件では、作業机としても代替できるカウンターキッチンや、1畳ほどのミニ書斎スペースの存在も、好評を得るひとつのポイントになったという。



湘南エリアで賃貸を物色

■さくらがおか

 テレワークを機に、都会の騒々しさから離れ、落ち着いた地域でテレワークを実践しようという人も出始めている。

テレワークが後押し
 中古、新築の売買仲介を手掛けるさくらがおか(神奈川県藤沢市)が運営する、賃貸や中古物件の情報サイト『湘南隠れ家不動産』へのアクセスが急増している。

 ここ数年は横ばいだったユニークユーザー数は、5月に前月比1.5倍に増え、月間1万を超えた。6月も同様の水準で推移している。

 「東京の人からの問い合わせが特に増えている。例年は全体の半分程度だが、5月以降は7割が東京在住。『賃料や物件価格が高い都心から離れたい』といった声が多い」と町田大光社長は話す。

 先日内見した東京都大田区に住む30代の夫婦。共にメーカーで働く技術者で、コロナ禍を機に夫婦共にテレワークとなった。それぞれのワークスペースが必要になったが、居住しているマンションでは手狭。加えて、通勤の必要がほぼなくなったため、都心と比べて家賃が据え置きの湘南エリアで、広々と暮らせる戸建てを求めた。

 『湘南隠れ家不動産』への問い合わせ数は、5月の実績で前年同月比倍増の約30件。賃貸物件に限ると、同3倍を超える12件だった。なお同サイトの掲載物件数は136件。うち、賃貸物件は24件(22日時点)。

 町田社長は「働く場所を選ばないテレワークの普及によって、交通の利便性よりも、家賃や価格の安さ、広さ、プライベートが充実する機能を重視する人が増えている印象だ」と語る。

 今後、同様のニーズがどの程度出てくるかはまだ分からない。だが、働き方の変化とともに、住まいニーズが変化することは間違いないだろう。


全国賃貸住宅新聞 掲載URL
https://www.zenchin.com/news/post-5191.php

『週刊全国賃貸住宅新聞 6月29日号より』
情報提供:株式会社 全国賃貸住宅新聞社