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2021年10月07日

消費税で税制改正された居住用賃貸建物を取得した場合の仕入税額控除制限とは?係争中の関連訴訟も

令和2年10月に、居住用賃貸建物についてかかる消費税の取扱いに大きな改正があった。
改正前は、居住用の投資マンションなどを購入した際に支払った消費税を、消費税の税額計算上控除する方法があったが、この改正でそれを封じた。


改正によって居住用賃貸建物を取得した場合の消費税の取扱いはシンプルになったが、改正前に取得したものの取扱いは、現在裁判で係争中の部分もある。


不動産投資家には馴染みが薄い消費税の仕組みと、改正前と改正後の取扱い、そして、係争中の事案のポイントを解説する。


令和2年10月1日以降の居住用賃貸建物の取得について

消費税の仕入税額控除が制限された


居住用の家賃収入は、消費税がかからない。消費税の課税売上が1,000万円を超えている課税事業者でなければ、そもそも消費税を申告納付する必要はない。

申告納付することがあったとしても、居住用の賃貸建物の取得にかかった消費税額は、消費税の税額計算で控除できないのが原則であり、居住用で投資運用している限り消費税は関係ない、という理解は妥当といえる。


ただし、従前の消費税制では、消費税の課税事業者であれば、居住用の賃貸建物の取得にかかった消費税を控除することができた。仕入や経費にかかった消費税額を控除してマイナスになった場合、マイナス分の税額を還付させることも可能であった。

これを利用して、本来、課税事業者でない居住用賃貸業の投資家が、金地金売買を繰り返しおこなうことによって課税事業者になり、消費税還付を受けるといったスキームがあった。


令和2年10月1日以降、居住用賃貸建物の取得にかかった消費税は、消費税の税額計算で控除できないこととなり、このような消費税還付スキームも封じられた。

消費税の仕組みと改正前の居住用賃貸建物にかかる仕入税額控除


そもそも、原則、消費税の税額計算で控除できないはずの居住用賃貸建物の取得にかかった消費税が、改正前の制度ではどのようにして控除することができたのだろうか。

まずは消費税の税額計算の仕組みを確認してみよう。消費税の納税額は、次のように計算される。

消費税の納税額=課税売上にかかる消費税額-課税仕入れ等にかかる消費税額

「課税仕入れ等にかかる消費税額」は「仕入控除税額」と呼ばれ、仕入や経費にかかった消費税額となる。この仕入控除税額の計算方法は、個別対応方式あるいは一括比例配分方式によることになっている。


個別対応方式が原則の計算方法であり、仕入や経費にかかった消費税額を、課税売上に対応するもの、非課税売上に対応するもの、両方に対応するもの(共通対応課税仕入れ)に分けて計算する。このうち、実際に控除されるのは、課税売上に対応するものと、両方に対応するものに課税売上割合を乗じたものとなる。

一括比例配分方式による場合、仕入控除税額は、すべての仕入や経費にかかった消費税額に課税売上割合を乗じて計算する。


居住用賃貸建物の取得にかかった消費税額は、居住用家賃収入という非課税売上に対応する消費税額であり、個別対応方式では控除されず、一括比例配分方式でも課税売上割合が低ければほぼ控除されない。


しかし、課税売上高が5億円以下、かつ、課税売上割合が95%以上の場合、これらの方法によらず、仕入や経費にかかった消費税額の全額を控除することができるとされている。金地金売買を繰り返すなどしてこの条件を満たすことができれば、居住用賃貸建物の取得にかかった消費税額も全額控除できたことになる。

改正後は原則仕入税額控除から除外だが、一定の場合には仕入税額控除の適用も可能


令和2年10月の改正によって、それ以降取得した一定の居住用賃貸建物にかかった消費税額は、そもそも仕入控除税額から除外されることとなった。一定の居住用賃貸建物の条件とは、「居住用賃貸建物」かつ「購入または建設による税抜き価格が1,000万円以上」である。


ただし、建物の一部を居住用賃貸以外に供していて、その部分を合理的に区分している場合は、その部分の税額については仕入税額控除が適用できる。建物の一部を区分して店舗設備を設置、賃貸予定である場合などが該当する。


また、いったん、仕入控除税額から除外されることとなっても、3年以内に課税賃貸用にしたときは、その居住用建物の税額に、課税賃貸割合(課税賃貸用の貸付額/全体の貸付額)を乗じた税額について仕入税額控除が適用できる。

同様に、3年以内に譲渡した場合、課税譲渡割合(譲渡日までの課税賃貸用の貸付額+その建物の譲渡額/譲渡日までの居住用の貸付額+その建物の譲渡額)を乗じた税額を仕入控除税額に含めることができる。


令和2年9月以前に取得した居住用賃貸建物にかかった消費税については係争中の事案も


令和2年10月の改正前に取得した居住用賃貸建物にかかった消費税についても、仕入税額控除の適用方法を巡って現在裁判で争われており、注意が必要だ。


中古マンションを買取り、リノベーションして入居付けをおこない投資家に販売しているADワークスは、その収益マンションの取得にかかった消費税額を、個別対応方式の課税売上(中古マンションの販売)に対応する税額として、仕入税額控除の適用において全額控除した。


これに対して、東京国税局は、収益マンションから生ずる家賃収入の非課税売上と、建物販売の課税売上との両方に対応するものであり、個別対応方式の共通対応課税仕入れに該当するとして、課税売上割合を乗じた分を仕入控除税額とすべきとした。


第一審では、特に、売却までに業者が得た家賃収入は、収益不動産販売の副産物であることを理由として、原告の主張を認めた。しかし、控訴審の東京高判令和3年7月29日は、一転、国税局の主張を認めて原告の主張を斥けた。


令和2年10月以降取得した居住用賃貸建物では、3年以内の譲渡した場合にのみ、課税譲渡割合を乗じた税額が仕入控除税額となるから、この問題は生じない。しかし、それ以前に転売目的で取得した居住用投資マンションなどがあり、それについての消費税額を全額控除する際には、否認されるリスクがあるといえるだろう。


健美家 https://www.kenbiya.com/ar/ns/tax/tax_system_amendment/5002.html