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業界ニュース
2025年11月06日
【不動産投資の落とし穴】 「モームリ事件」に学ぶ、不動産投資家が陥りやすい法律の落とし穴 ~非弁行為・代理交渉・契約トラブルの境界線とは?~
退職代行サービス「モームリ」を運営する会社が、弁護士法違反(非弁行為)の疑いで家宅捜索を受けたというニュースが話題になりました。一見「退職の連絡代行」に過ぎない業務のはずが、「交渉」や「和解あっせん」に踏み込んでいたとすれば、弁護士法第72条に抵触する可能性があります。
実はこの構図、不動産業界にも無関係ではありません。賃貸トラブルや立退き交渉など、不動産管理会社・大家・仲介業者が「ちょっとした交渉」を行ったつもりでも、内容次第では非弁行為のリスクを伴うのです。今回はこの事件をきっかけに、不動産投資家・大家が知っておくべき「非弁行為」をご説明します。
1.モームリ事件に見る「非弁行為」とは何か ― 弁護士法第72条の基本を知る
退職代行サービス「モームリ」を運営するアルバトロス社が、弁護士法違反(いわゆる非弁行為)の疑いで警視庁の家宅捜索を受けたというニュースは、多くの業界関係者に衝撃を与えました。
表向きは「退職の意思を伝えるだけ」という代行サービスでも、実際には「未払い賃金の交渉」や「退職条件の調整」など、法律上の権利義務に踏み込むやり取りがあったとされます。
こうした行為は、弁護士法第72条が定める「報酬を得る目的で法律事務を取り扱う行為」に該当し、弁護士資格を持たない者が行えば刑事罰の対象となります。
一見、退職代行と不動産投資は無関係に思えますが、実は非常に似た構図があります。不動産業界でも、管理会社や投資家、仲介業者などが、入居者との賃料交渉や立退交渉を独自に進めようとする場面があります。
単なる「事務的な連絡」であれば問題ありませんが、「滞納家賃の分割支払いの合意」や「立退料の金額交渉」といった法律上の権利調整を含む対応は、弁護士の独占業務にあたるおそれがあります。つまり、モームリ事件で問題となった「どこまでが合法の範囲か」という線引きは、不動産実務においても無関係ではないのです。
弁護士法第72条が禁止しているのは、単なる書類作成や伝言ではなく、「法的判断を伴う代理・交渉・あっせん行為」です。
たとえ本人や管理会社の善意であっても、法律的な立場を代弁する行為を報酬目的で行えば、非弁行為に問われる可能性があります。
このように「モームリ事件」は、現代社会で"法的サービスの民間化"が進む中で、どの業界でも他人事ではない「コンプライアンスの境界」を浮き彫りにしたといえるでしょう。
2.不動産投資家・大家が陥りやすい「非弁リスク」3選
モームリ事件のように、「本人の代理や交渉を行う」ことが法律上の問題となるケースは、不動産の現場でも少なくありません。
とくに賃貸経営では、トラブルの初期対応を誤ると、知らぬ間に弁護士法違反のリスクを負ってしまうことがあります。ここでは、実際によく見られる3つのパターンを紹介します。
まず1つ目は、「管理会社に立退き交渉を丸投げしてしまうケース」です。賃料滞納や更新拒絶などで入居者に退去を求める際、オーナーが「代わりに話をしておいて」と頼むことはよくあります。
しかし、立退料の金額や退去時期の交渉など、法律上の権利義務を調整する行為は、弁護士しか行えません。実際、管理会社が立退交渉を進めた結果、入居者との間でトラブルになり、非弁行為を指摘された事例もあります。
2つ目は、「契約書や内容証明を他人に代筆させるケース」です。例えば、「滞納賃料を支払わない場合は契約解除する」という通知文を、弁護士以外が報酬目的で作成・発送すれば、これも非弁行為に該当する可能性があります。
文面の内容が法的判断を含むかどうかが重要であり、単なる「連絡書」ではなく「権利の主張」になっている場合は要注意です。
そして3つ目は、「不動産コンサルや買取業者による"トラブル解決サポート"」です。最近では、「弁護士を通さずに和解まで持ち込みます」「権利関係を整理して立退を実現します」といった営業を行う事業者も見られます。
しかし、これらも内容によっては弁護士法第72条に抵触するおそれがあります。実際、弁護士の関与がないまま立退料や示談金の金額交渉を行えば、"代理・あっせん"と見なされる可能性が高いのです。
不動産投資家や大家業では、こうした「非弁リスク」は決して珍しくありません。重要なのは、「単なる事務手続き」なのか、「法律上の判断を伴う交渉」なのかを明確に線引きすることです。曖昧なまま任せてしまうと、知らぬ間に法令違反の当事者となり、思わぬトラブルに発展するおそれがあります。
3.トラブルを避けるための実務対応と弁護士の関わり方
非弁行為のリスクを避けるために、不動産投資家や大家さんがまず意識すべきことは、「トラブルが起きてから弁護士に頼む」ではなく、「トラブルになりそうな段階で弁護士を入れる」という発想です。実際、法律トラブルの多くは、初期段階での対応ミスが後の紛争を大きくしているケースが少なくありません。
たとえば、賃料滞納や立退きの問題が発生した場合、管理会社に全てを任せるのではなく、「どこまでを事務的な対応とし、どこからを法的対応とするのか」を明確に線引きしておくことが重要です。
また、契約書の作成や内容証明の送付といった手続きも、形式だけでなく文面の法的意味を正確に判断できる弁護士が確認することで、将来的な紛争リスクを大幅に下げられます。
費用面から「弁護士に頼むのは最後の手段」と考える方も多いですが、実際には、初期相談の段階で関与するほうが結果的に費用も時間も少なく済みます。
特に、不動産トラブルは感情的な対立を伴いやすく、早期に第三者である弁護士が介入することで、冷静かつ法的根拠に基づく解決が可能になります。
今回のモームリ事件が示したように、「法律のグレーゾーンを安易に商機とする行為」には、思わぬ刑事リスクが潜んでいます。
不動産分野においても、法的な線引きを正しく理解し、弁護士と協働する姿勢を持つことが、結果的に資産を守る最善のリスク管理策といえるでしょう。
引用:健家美 https://www.kenbiya.com/ar/ns/jiji/legal_knowledge/9515.html