4月1日から「宅地建物取引業法の一部を改正する法律」(改正宅建業法)が本格施行され、「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」の改正による運用上の指針に応じたインスペクション(建物状況調査)関連の義務化が始まる。現場での運用がスタートする前に、今回の改正が現場にもたらす影響を確認する。<インスペクションの取引フロー 国土交通省資料より>
3つの場面で必要に 同改正の新規措置により、4月以降の既存建物についての不動産取引では、インスペクションが次の3つのタイミングで登場することになる。まずは媒介契約締結時で、物件媒介の依頼を受けた宅建業者が依頼者に対して、内容を認識できるようインスペクションについて説明をした上で「インスペクション業者のあっせんの可否」を伝える。そして依頼者の意向があれば業者をあっせんし、あっせんの有無を契約書に記載する。この場合のインスペクションについては、国の登録を受けた既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士が、既存住宅状況調査方法基準に基づいて行うよう定められている。 続いて重要事項説明時には、宅建業者がインスペクションの調査結果を買主に報告する。また新耐震基準への適合の証明としての確認申請書および添付書類、確認済証、検査済証、耐震基準適合証明書のほか、調査点検に関する報告書類としてインスペクションの調査報告書、既存住宅性能評価書、定期調査報告書について、保存の有無を説明する必要がある。
最後が売買契約締結時で、売主・買主の双方が基礎や外壁などの建物状況を共に確認。契約書には「当事者の双方が確認した事項」として、インスペクションの調査結果を(実施していない場合には「無」として)記載することとなっている。実施は義務化せず なお、これらの内容の通り宅建業者にとってのインスペクションに関する義務は説明やあっせん、報告、書面への記載などで、インスペクションの実施自体は義務付けられてはいない。またインスペクションの実施に当たっては、宅建業者がインスペクションの資格を持っている場合でも、自らが取引の媒介を行うときには、依頼者の同意がある場合を除いてはインスペクションを実施することは望ましくないとされている。 加えて媒介契約時と同様、買主に事業者をあっせんする場合には、建物所有者にインスペクションの実施についてあらかじめ承諾を得る必要があることや、宅建業者はインスペクションのあっせんによる報酬を受け取ることはできない点にも注意が必要だ。 国土交通省では、このインスペクション関連の情報発信に力を入れている。例えば「改正宅地建物取引業法の概要」として、説明会などで挙がった事業者からの質問をまとめて公開。内容は随時追加しており、最新版は2月末に更新されたものだ。 具体的な運用に当たっては様々なケースが想定されるため、代表的な実務上の注意点などは事前に把握しておくことが重要となりそうだ。媒介契約時期、調査報告書... 取引トラブルの防止を 既存住宅の取引現場で懸念されるポイントは何か。まずは一般消費者との認識のズレを防ぐことと指摘するのは宅地建物取引士の本鳥有良氏(プランサービス社長)。「インスペクションは目視を中心とした非破壊による検査。対象範囲が建物全体ではなく、特定部位(建物の構造上主要な部分および雨水の浸入を防止する部分)であるという前提の共有が必要だ」。 また、依頼者がインスペクションについて認識した上で既存住宅の取引が行えるよう媒介契約の締結前に建物状況調査と瑕疵保険の制度概要について説明を行うことが望ましいという。これは瑕疵保険の登録検査事業者が既存住宅状況調査技術者の資格を有していれば、2種の調査が同時に行えるため。特に瑕疵保険の加入を希望する依頼主にとっては検査の二度手間を省略できる。ただし、両調査は検査範囲は同一だが、求められる検査結果の水準が異なる。目視による建物状況調査では点検口がついていない物件の場合、調査報告書では「(劣化事象が)調査できなかった」の欄にチェックが入る。一方、瑕疵保険加入には劣化事象等が「無」であり、調査対象部位すべての調査がなされていることが必須となるため、宅建業者は事前に瑕疵保証調査の基準を満たす検査が行える状況か確認が必要となる。 「あっせん」に関しては、インスペクションの実施に向けた具体的なやりとり(調査費用見積もり、売主への調査実施の意向確認など)が含まれる。調査費用は依頼主負担となるケースが多い中、実施金額は一律でないため、相見積もりの依頼が想定される。更にあっせんを受けた場合でもその調査費用などの説明を踏まえて調査を行わないという選択も起こりうる。媒介契約の締結タイミングについても「商習慣では重説時の直前となるケースが多いものの、状況調査事業者との段取りの時間を加味すれば、買付け時に行うのが望ましいのではないか。4月の本格施行の前に各社独自のスタンスを整理しておきたい」(本鳥氏)。 また、調査報告書の取り扱いについても対策が必要だ。特に購入希望者が調査依頼する場合。既存住宅状況調査技術者の溝渕匠氏(タクミプランニングサポート一級建築士事務所代表)は、「家の個人情報でもある報告書は依頼者に交付される。購入見送りやローン特約などにより契約が解除された際、購入希望者はその報告書を売主に返すのかなど、宅建業者が事前の協議で取りまとめ、トラブル回避に努めたい」と話す。「あっせん」支援も 事業者の業務負担が懸念される中、「あっせん」を支援する動きも増えてきた。大手流通会社が加盟する不動産流通経営協会(FRK、榊真二理事長)は昨年11月、ERIソリューションとインスペクションおよび瑕疵保証に関する業務提携契約を締結。FRK会員各社がインスペクションのあっせん、紹介等を行う場合、顧客はFRK会員料金での利用が可能となった。 中小仲介業者が所属する全国宅地建物取引業協会連合会(伊藤博会長)並びに全日本不動産協会(原嶋和利理事長)でも会員への周知徹底や提携サービスなどインスペクションへの対応を進めてきた。両団体と提携するジャパンホームシールドは昨年10月から顧客にパンフレット「住宅インスペクションアプローチブック」(関連記事16面)を無償配布し好評だ。同様に日本リビング保証も2月、仲介事業者が無料で利用できるあっせんツールの提供を開始した。『住宅新報 2018年3月13日号より』
4月1日から「宅地建物取引業法の一部を改正する法律」(改正宅建業法)が本格施行され、
「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」の改正による運用上の指針に応じたインス
ペクション(建物状況調査)関連の義務化が始まる。現場での運用がスタートする前に、
今回の改正が現場にもたらす影響を確認する。
<インスペクションの取引フロー 国土交通省資料より>
3つの場面で必要に
同改正の新規措置により、4月以降の既存建物についての不動産取引では、インスペク
ションが次の3つのタイミングで登場することになる。まずは媒介契約締結時で、物件媒
介の依頼を受けた宅建業者が依頼者に対して、内容を認識できるようインスペクションに
ついて説明をした上で「インスペクション業者のあっせんの可否」を伝える。そして依頼
者の意向があれば業者をあっせんし、あっせんの有無を契約書に記載する。この場合のイ
ンスペクションについては、国の登録を受けた既存住宅状況調査技術者講習を修了した建
築士が、既存住宅状況調査方法基準に基づいて行うよう定められている。
続いて重要事項説明時には、宅建業者がインスペクションの調査結果を買主に報告する。
また新耐震基準への適合の証明としての確認申請書および添付書類、確認済証、検査済証、
耐震基準適合証明書のほか、調査点検に関する報告書類としてインスペクションの調査報
告書、既存住宅性能評価書、定期調査報告書について、保存の有無を説明する必要がある。
最後が売買契約締結時で、売主・買主の双方が基礎や外壁などの建物状況を共に確認。
契約書には「当事者の双方が確認した事項」として、インスペクションの調査結果を(実施
していない場合には「無」として)記載することとなっている。
実施は義務化せず
なお、これらの内容の通り宅建業者にとってのインスペクションに関する義務は説明や
あっせん、報告、書面への記載などで、インスペクションの実施自体は義務付けられては
いない。またインスペクションの実施に当たっては、宅建業者がインスペクションの資格
を持っている場合でも、自らが取引の媒介を行うときには、依頼者の同意がある場合を除
いてはインスペクションを実施することは望ましくないとされている。
加えて媒介契約時と同様、買主に事業者をあっせんする場合には、建物所有者にインス
ペクションの実施についてあらかじめ承諾を得る必要があることや、宅建業者はインスペ
クションのあっせんによる報酬を受け取ることはできない点にも注意が必要だ。
国土交通省では、このインスペクション関連の情報発信に力を入れている。例えば「改
正宅地建物取引業法の概要」として、説明会などで挙がった事業者からの質問をまとめて
公開。内容は随時追加しており、最新版は2月末に更新されたものだ。
具体的な運用に当たっては様々なケースが想定されるため、代表的な実務上の注意点な
どは事前に把握しておくことが重要となりそうだ。
媒介契約時期、調査報告書... 取引トラブルの防止を
既存住宅の取引現場で懸念されるポイントは何か。まずは一般消費者との認識のズレを
防ぐことと指摘するのは宅地建物取引士の本鳥有良氏(プランサービス社長)。「インスペ
クションは目視を中心とした非破壊による検査。対象範囲が建物全体ではなく、特定部位
(建物の構造上主要な部分および雨水の浸入を防止する部分)であるという前提の共有が必
要だ」。
また、依頼者がインスペクションについて認識した上で既存住宅の取引が行えるよう媒
介契約の締結前に建物状況調査と瑕疵保険の制度概要について説明を行うことが望ましい
という。これは瑕疵保険の登録検査事業者が既存住宅状況調査技術者の資格を有していれ
ば、2種の調査が同時に行えるため。特に瑕疵保険の加入を希望する依頼主にとっては検査
の二度手間を省略できる。ただし、両調査は検査範囲は同一だが、求められる検査結果の
水準が異なる。目視による建物状況調査では点検口がついていない物件の場合、調査報告
書では「(劣化事象が)調査できなかった」の欄にチェックが入る。一方、瑕疵保険加入には
劣化事象等が「無」であり、調査対象部位すべての調査がなされていることが必須となるた
め、宅建業者は事前に瑕疵保証調査の基準を満たす検査が行える状況か確認が必要となる。
「あっせん」に関しては、インスペクションの実施に向けた具体的なやりとり(調査費用
見積もり、売主への調査実施の意向確認など)が含まれる。調査費用は依頼主負担となるケ
ースが多い中、実施金額は一律でないため、相見積もりの依頼が想定される。更にあっせん
を受けた場合でもその調査費用などの説明を踏まえて調査を行わないという選択も起こりう
る。媒介契約の締結タイミングについても「商習慣では重説時の直前となるケースが多いも
のの、状況調査事業者との段取りの時間を加味すれば、買付け時に行うのが望ましいのでは
ないか。4月の本格施行の前に各社独自のスタンスを整理しておきたい」(本鳥氏)。
また、調査報告書の取り扱いについても対策が必要だ。特に購入希望者が調査依頼する場合。
既存住宅状況調査技術者の溝渕匠氏(タクミプランニングサポート一級建築士事務所代表)は、
「家の個人情報でもある報告書は依頼者に交付される。購入見送りやローン特約などにより契
約が解除された際、購入希望者はその報告書を売主に返すのかなど、宅建業者が事前の協議で
取りまとめ、トラブル回避に努めたい」と話す。
「あっせん」支援も
事業者の業務負担が懸念される中、「あっせん」を支援する動きも増えてきた。大手流通
会社が加盟する不動産流通経営協会(FRK、榊真二理事長)は昨年11月、ERIソリューションと
インスペクションおよび瑕疵保証に関する業務提携契約を締結。FRK会員各社がインスペク
ションのあっせん、紹介等を行う場合、顧客はFRK会員料金での利用が可能となった。
中小仲介業者が所属する全国宅地建物取引業協会連合会(伊藤博会長)並びに全日本不動産協
会(原嶋和利理事長)でも会員への周知徹底や提携サービスなどインスペクションへの対応を進
めてきた。両団体と提携するジャパンホームシールドは昨年10月から顧客にパンフレット「住
宅インスペクションアプローチブック」(関連記事16面)を無償配布し好評だ。同様に日本リビ
ング保証も2月、仲介事業者が無料で利用できるあっせんツールの提供を開始した。
『住宅新報 2018年3月13日号より』