コロナ禍の売買IT重説社会実験 登録780業者、1年間で急増 投資用物件での活用進む |住宅新報|業界ニュース|一般社団法人 投資不動産流通協会

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業界ニュース

2020年10月15日

コロナ禍の売買IT重説社会実験 登録780業者、1年間で急増 投資用物件での活用進む 

 個人を含む売買取引における「IT重説」の社会実験の開始から1年が経過した。不動産の電子化取引の促進を目的に、19年10月から大手仲介会社を含む59社でスタートしたもの。当初実施期間は1年程度と想定されていたが、コロナ禍の感染対策が求められる状況を鑑みて、継続実施が決定。登録事業者も780社(20年10月5日時点)と大きく増加した。本格運用に向けた手応えと課題は何か。不動産取引の安全性や利便性の向上など、登録事業者の事例と共に考える。
 IT重説とは、宅建業法第35条に基づき宅建士が行う重要事項説明を、テレビ会議等のITを活用して行うもの。賃貸取引では社会実験を経て、17年10月から本格運用を開始。「遠隔地の顧客の移動・費用等の負担軽減」「来店困難時でも本人への対応可能」といったメリットを強みに、賃貸現場での活用が進んできた。更にIT重説に用いるデジタル書面に関する社会実験も19年10~12月に実施。今年9月には具体的なトラブル事例などを踏まえた〝継続実施〟として再開されている。

 19年10月スタートの売買取引の社会実験では、対象物件の制限を設けず、情報ツールとしてテレビ会議等を活用。宅建士、説明の相手方および売主に対するアンケート調査等の結果に基づき、検討会で検証する流れだ。登録事業者には、社会実験の実施前後および実施中の段階で〝責務〟が発生。例えば「実施前」では、説明の相手方、売主への同意の取得をはじめ、IT環境の確認、重要事項説明書等の事前送付などだ。国土交通省のガイドラインによると、賃貸取引に比べて資料数・ページ数が増える傾向にある売買取引では、事前送付の段階で資料の印付けなどコミュニケーションが円滑に進むための工夫を推奨している。


トラブル報告なく

 
国交省では現在、9月末時点の実施経過をとりまとめ中だ。具体的な実施件数や傾向については今後の検証が待たれるが、3月の有識者検討会で報告された実施状況(2月25日時点)では登録事業者59社のうち実績があったのは5社。実施件数は合計143件で、139件が投資用物件。買主の9割弱は「物件の内覧を行っていない」と回答した一方、居住用物件(4件)に関してはすべて内覧を実施。売買のIT重説では投資用での活用がまずは注目された。

 そんな中、コロナ禍による非対面ニーズへの変容が迫られる事態となったが、国交省は、「この1年間、大きなトラブル等の報告はなく順調に実験が進んでいる。コロナ禍以降、登録事業者が飛躍的に増加している状況も踏まえ、継続実験と併行して有識者会議を開き、本格運用に向けた検討を進める」としている。


利便性の鍵は書面交付など

 
登録事業者の取り組みも振り返ろう。テクノロジーで不動産取引の円滑化を推進するGAテクノロジーズ(GA、東京都港区、樋口龍社長)は、実験開始当初から不動産投資サービス「リノシーアセット」で参加。1年間のIT重説の実施件数は242件で、すべてが投資用不動産だ。

 同社は4月以降、コロナ対策としてIT重説を活用した〝完全非対面契約〟に移行した。面談から契約まで1度もエージェントと対面することなく売買契約を締結する体制を整え、242件のうち約70件(50名が利用)を実施。9月にはこの50名に対して非対面契約に関するアンケート(回答数26名)を行い、利用者の大多数から「オンライン契約の実用化を望む」「手続きの利便性に満足」などの声をヒアリング。今後電子化を望むものとして「署名・捺印」「書類等の確認」「書面の返送」などの回答も得た。

 同社セールス部門マネージャーの萩野裕明氏は、面談や決済など各手続きでオンライン完結を目指してきた取り組みと、セールス部門と重説部門の業務分担が明確な社内体制が奏功したと分析する。移動時間や出張回数の減少による重説部門の宅建士の業務効率化、セールス部門の商談機会の増加などの成果を認める一方、「契約時間の短縮、成約件数の増加には至っていない。コロナ禍では『対面不可』という顧客のオンラインニーズに対応し、機会損失が防げた」と総括する。

 IT重説を担当した重説部門マネージャーの李紅梅氏(宅建士)は、「平日昼間のリモート契約や支社の重説をオンラインでフォローした」と、日程調整の幅の拡大や柔軟な働き方の可能性を示唆する。他方、実務ではポイントを絞った説明と誤解が生じない慎重な進行を心掛けながらも「画面越しに記入漏れや捺印ミスがないか確認していくため、対面時よりも長くなる場合がある」と指摘。書類の返送や期日までの入金等、売買に係る一連の手続きについて顧客の理解浸透を図ると共に、スケジュールを進行管理していく事業者のスキルも円滑な取引には必要となる。


〝受け皿〟で新規客も

 
世界規模で不動産仲介事業や開発事業を進めるリストグループのリストインターナショナルリアルティ(神奈川県横浜市、北見尚之社長)は、7月16日から銀座、広尾の2店舗で対応開始。高級不動産の売買契約がオンライン上で完結可能となった。

 9月末までに「海外の顧客で都心の投資用物件購入」「国内法人で都心の自用地購入」など新規客で実施。準備や実施段階で大きな負担は発生していないという。選択肢の一つとして提案している中での反響とあり、「コロナ禍で来日できない顧客も契約まで完結できた。リゾートなど遠方の不動産契約にも有効」(同社)。今後の店舗戦略については「投資マンションや収益物件では有効。リゾートも扱うため、主要都市を中心に店舗展開していく可能性はある」とした上で、都心の顧客で都心の物件の場合は原則対面で行う姿勢を示す。居住用物件についても利用は可能とし、「IT重説前後のフローでも、事前に着金確認等すれば問題ない」(同社)という前向きな受け止めだ。

 GAも現行のIT重説において、取引の安全性に懸念点はないという。他方、顧客が十分な利便性を感じるには書面交付等が課題になるとし、「今後、〝完全非対面契約〟によって遠隔でも契約手続きがスムーズにできるよう、制度の整備が進み、業界全体での認知度が高まれば、商圏や顧客属性の広がりも期待できる」と予測する。

 居住用物件では「物件探しから契約までを完全オンライン化するのはハードルが高い。システムを活用して、重説のオンライン化や対面時の手続きなどを簡素化していく方向」(萩野氏)。同業他社への外販も進めて、業界のテック化に寄与していく構想。支店展開については現状、宅建資格保有の義務から重説部隊の一カ所集中の予定はないとし、本社・各支店が相互支援できる状態を目指す考えだ。

 今回紹介した登録事業者の手応えと課題は取り組みの一部ながら、800社に迫る不動産事業者が当事者として社会実験に参加している状況は意義深い。今後も本格運用に向けた具体的な課題の共有と検討が期待される。


住宅新報 2020年10月13日号より