自然災害の激甚化、常態化が叫ばれて久しい。そうした中、昨秋の台風による大災害に続いて今夏も豪雨による大規模な水害が広域で発生し、多くの犠牲者と被災者を出してしまった。6月に発表された国土交通白書には、「防災・減災が主流となる社会の実現」が政策の大方針に掲げられたばかり。その実現に向けては、関連法令の整備と共に、地域社会における公助、共助、自助の徹底と実践がカギを握る。具体的な水災害の対策に乗り出した官民の動きをまとめた。 従来、国内の住宅・不動産分野におけるレジリエンスや災害対策は、耐震性能を重視する傾向が強かった。しかし近年激甚化している台風や豪雨などにより、全国各地で大規模な被害が発生したことなどを踏まえ、国は水災害対策の法令等の整備に注力。災害を未然に防ぐための施策を講じている。
直近では、国土交通省が不動産取引時の重要事項説明対象項目として、水害ハザードマップに関する説明を追加。7月17日に宅地建物取引業法施行規則を改正、公布した。施行は8月28日(2面に関連記事)。
具体的には、宅建業者は重説時にハザードマップを提示し、取引の相手方に対象物件の所在地について説明することを義務付けた。同省は19年7月にも、不動産業界団体に対して重説時のハザードマップ説明について協力を要請していたが、今回の省令改正によって宅建業者の義務として明確化した。
取引におけるリスク周知だけでなく、〝災害に強い街づくり〟も国政の重要なテーマだ。前の国会では、6月に「防災・減災」を軸の一つとした改正都市再生特措法が成立。災害リスクの高いエリアにおける開発を抑制し、既存の住居等の移転促進を図っている。
法改正で開発抑止 同改正法では、建築基準法等の規定する災害危険区域等を総称した「災害レッドゾーン」で開発規制を強化したほか、市街化調整区域でも浸水ハザードエリアにおける住宅開発許可を厳格化。立地適正化計画内の居住誘導区域からも災害レッドゾーンを原則除外する。災害リスクのある土地における開発に、法で歯止めをかけていく狙いだ。併せて新制度を創設し、災害ハザードエリアから居住誘導区域への住宅・施設の移転を促す市町村の取り組みを後押しする。
加えて同改正法と同様の趣旨から、4月1日には「集団移転促進事業」についての改正政令が公布、施行されている。同事業実施のために地方自治体が整備する住宅団地の規模要件を緩和し、国の財政措置を受けやすくした。
このように、災害リスクの高い地域では「新たに開発しない」「既存の住民等は移転を促す」という両輪の施策で、発災時の被害を未然に防ぐことを目指している。
建築物浸水対策に指針 更に、建築物における災害対策も推進している。国交省と経産省は19年の「令和元年東日本台風」による高層マンションの停電事例などを受け、6月19日に「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」を策定した。
同ガイドラインでは、主に高層のマンションやオフィスビルなどにおいて、豪雨などによる高圧受変電設備への浸水被害を未然に防ぐための対策を提示したもの。電気設備の設置場所や防水設備により浸水リスクを低減すると共に、被害発生時の早期復旧に向けた体制整備などについて指針を示した。
これらの事例などから、現在は開発地の選定・取得から物件の建築、取引などの各段階において、水災害リスクについて意識することの重要性が一層高まっていると考えてよいだろう。
不動協が報告書、水防ライン強化を 不動産協会は、5月に「水害等の災害に備えるための都市・住宅の強靭化」研究会(代表=青山やすし明大名誉教授)の報告書を公表した。この研究会は、19年秋の水害を契機に発足。大都市のマンションに対する気候変動対策と水害への強靱性を高めるための方策を検討した。
報告書では、(1)ディベロッパーなどの開発者・管理者(管理組合)、(2)近隣住民等、(3)行政の3つの主体に分けて具体策を提示すると共に、容積率算入見直しや税制改正の検討にも触れた。それを踏まえて、それぞれが連携していくことの重要性が示された。
まず、開発者・管理者(管理組合)が実施する強靱化策は、一般的に地下に設置されることが多い機械室等への浸水を防止する策として、下水からの逆流による浸水を防止することを含めた水防ラインの見直し・強化を提案。その上で、想定される被害に対して不十分と考えられる場合には、機械室の水密化による機能継続を図ることを指摘した。
また、中高層建築物などを新築する場合には、ハザードマップで示されている想定浸水の深さなどを十分に考慮して、機械室を地上部に設置することも検討すると共に、その際には機械室が騒音・振動などを発する点や地上に設置すると容積対象となることなどを考慮する必要性を提示した。
次に、近隣住民等が実施する具体策は、事前準備の重要性を指摘している。程度が軽い浸水に対応するため、個別住宅への止水対策や地下や半地下といった浸水する可能性のある階の居住機能を上階に移動、食料、簡易トイレ等の備蓄を十分に備えておくことなどを示した。
また、日頃から避難場所・避難経路を確認し、実際に避難訓練を行い、問題がないか確認するなど、準備を怠らないことが望ましいとした。問題があると考えられる場合には、各主体が防災・減災を進めていく共助、すなわち『安全のシェア』による解決が可能かどうか、自主防災組織や他の主体との連携の必要性を訴えた。
きめ細かなハザード情報 行政には、開発者・管理者(管理組合)や近隣住民等が適切な具体策を図ることができるよう、内水氾濫のハザードマップなどの水害ハザード情報を作成・公開する。更に個別の開発者・管理者(管理組合)や近隣住民等の立場に立って、特定の敷地の水害ハザード情報が明確に分かるようにするといったきめ細やかな配慮を求めた。また、開発者・管理者(管理組合)や近隣住民等が自助努力では対応しきれない場合には、地区防災計画の活用、都市計画的手法や協定締結の支援などにより、『安全のシェア』の実効性を高めていくことも提示した。
そして、都市・住宅の更なる強じん化に向けて、3つの主体が『安全のシェア』の精神で連携を強化することで、持続可能な都市・住宅を目指すことの重要性を示した。
住宅新報 2020年7月28日号より
自然災害の激甚化、常態化が叫ばれて久しい。そうした中、昨秋の台風による大災害に続いて今夏も豪雨による大規模な水害が広域で発生し、多くの犠牲者と被災者を出してしまった。6月に発表された国土交通白書には、「防災・減災が主流となる社会の実現」が政策の大方針に掲げられたばかり。その実現に向けては、関連法令の整備と共に、地域社会における公助、共助、自助の徹底と実践がカギを握る。具体的な水災害の対策に乗り出した官民の動きをまとめた。
従来、国内の住宅・不動産分野におけるレジリエンスや災害対策は、耐震性能を重視する傾向が強かった。しかし近年激甚化している台風や豪雨などにより、全国各地で大規模な被害が発生したことなどを踏まえ、国は水災害対策の法令等の整備に注力。災害を未然に防ぐための施策を講じている。
直近では、国土交通省が不動産取引時の重要事項説明対象項目として、水害ハザードマップに関する説明を追加。7月17日に宅地建物取引業法施行規則を改正、公布した。施行は8月28日(2面に関連記事)。
具体的には、宅建業者は重説時にハザードマップを提示し、取引の相手方に対象物件の所在地について説明することを義務付けた。同省は19年7月にも、不動産業界団体に対して重説時のハザードマップ説明について協力を要請していたが、今回の省令改正によって宅建業者の義務として明確化した。
取引におけるリスク周知だけでなく、〝災害に強い街づくり〟も国政の重要なテーマだ。前の国会では、6月に「防災・減災」を軸の一つとした改正都市再生特措法が成立。災害リスクの高いエリアにおける開発を抑制し、既存の住居等の移転促進を図っている。
法改正で開発抑止
同改正法では、建築基準法等の規定する災害危険区域等を総称した「災害レッドゾーン」で開発規制を強化したほか、市街化調整区域でも浸水ハザードエリアにおける住宅開発許可を厳格化。立地適正化計画内の居住誘導区域からも災害レッドゾーンを原則除外する。災害リスクのある土地における開発に、法で歯止めをかけていく狙いだ。併せて新制度を創設し、災害ハザードエリアから居住誘導区域への住宅・施設の移転を促す市町村の取り組みを後押しする。
加えて同改正法と同様の趣旨から、4月1日には「集団移転促進事業」についての改正政令が公布、施行されている。同事業実施のために地方自治体が整備する住宅団地の規模要件を緩和し、国の財政措置を受けやすくした。
このように、災害リスクの高い地域では「新たに開発しない」「既存の住民等は移転を促す」という両輪の施策で、発災時の被害を未然に防ぐことを目指している。
建築物浸水対策に指針
更に、建築物における災害対策も推進している。国交省と経産省は19年の「令和元年東日本台風」による高層マンションの停電事例などを受け、6月19日に「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」を策定した。
同ガイドラインでは、主に高層のマンションやオフィスビルなどにおいて、豪雨などによる高圧受変電設備への浸水被害を未然に防ぐための対策を提示したもの。電気設備の設置場所や防水設備により浸水リスクを低減すると共に、被害発生時の早期復旧に向けた体制整備などについて指針を示した。
これらの事例などから、現在は開発地の選定・取得から物件の建築、取引などの各段階において、水災害リスクについて意識することの重要性が一層高まっていると考えてよいだろう。
不動協が報告書、水防ライン強化を
不動産協会は、5月に「水害等の災害に備えるための都市・住宅の強靭化」研究会(代表=青山やすし明大名誉教授)の報告書を公表した。この研究会は、19年秋の水害を契機に発足。大都市のマンションに対する気候変動対策と水害への強靱性を高めるための方策を検討した。
報告書では、(1)ディベロッパーなどの開発者・管理者(管理組合)、(2)近隣住民等、(3)行政の3つの主体に分けて具体策を提示すると共に、容積率算入見直しや税制改正の検討にも触れた。それを踏まえて、それぞれが連携していくことの重要性が示された。
まず、開発者・管理者(管理組合)が実施する強靱化策は、一般的に地下に設置されることが多い機械室等への浸水を防止する策として、下水からの逆流による浸水を防止することを含めた水防ラインの見直し・強化を提案。その上で、想定される被害に対して不十分と考えられる場合には、機械室の水密化による機能継続を図ることを指摘した。
また、中高層建築物などを新築する場合には、ハザードマップで示されている想定浸水の深さなどを十分に考慮して、機械室を地上部に設置することも検討すると共に、その際には機械室が騒音・振動などを発する点や地上に設置すると容積対象となることなどを考慮する必要性を提示した。
次に、近隣住民等が実施する具体策は、事前準備の重要性を指摘している。程度が軽い浸水に対応するため、個別住宅への止水対策や地下や半地下といった浸水する可能性のある階の居住機能を上階に移動、食料、簡易トイレ等の備蓄を十分に備えておくことなどを示した。
また、日頃から避難場所・避難経路を確認し、実際に避難訓練を行い、問題がないか確認するなど、準備を怠らないことが望ましいとした。問題があると考えられる場合には、各主体が防災・減災を進めていく共助、すなわち『安全のシェア』による解決が可能かどうか、自主防災組織や他の主体との連携の必要性を訴えた。
きめ細かなハザード情報
行政には、開発者・管理者(管理組合)や近隣住民等が適切な具体策を図ることができるよう、内水氾濫のハザードマップなどの水害ハザード情報を作成・公開する。更に個別の開発者・管理者(管理組合)や近隣住民等の立場に立って、特定の敷地の水害ハザード情報が明確に分かるようにするといったきめ細やかな配慮を求めた。また、開発者・管理者(管理組合)や近隣住民等が自助努力では対応しきれない場合には、地区防災計画の活用、都市計画的手法や協定締結の支援などにより、『安全のシェア』の実効性を高めていくことも提示した。
そして、都市・住宅の更なる強じん化に向けて、3つの主体が『安全のシェア』の精神で連携を強化することで、持続可能な都市・住宅を目指すことの重要性を示した。
住宅新報 2020年7月28日号より