北海道の不動産市場は活況を呈している。2023年の路線価では、都道府県別で北海道は前年比6.8%増と、全国トップの伸び率を示した。まもなく公表される都道府県地価調査でも同様の傾向になるものと予想されている。札幌はもとより、ニセコは国際的なスキーリゾートとしての地位を確立しつつある。好調な市況を受けて、全ての事業分野を展開しているのが、東急不動産グループだ。同グループの事業展開を事例として、北海道の不動産市況を展望する。(桑島良紀)
同社が北海道で全事業分野を展開する背景として、30年の北海道新幹線の札幌駅への延伸や冬季五輪開催への期待が高まる中、札幌駅周辺を中心に市内で開発が進んでいるほか、同社グループの東急コミュニティーが管理する北広島市の新しい野球場「エスコンフィールド HOKKAIDO」の周辺でも地価上昇が続いていることを指摘。札幌市近郊部の住宅地、商業地にも地価上昇の流れが波及していると見ている。同社は、11月30日には札幌の中心部「すすきの」の玄関口で、ホテルや商業施設のほかシネマコンプレックスなどが入る「COCONO SUSUKINO」をオープンする。
札幌近郊は実需中心
JR札幌駅から電車で約9分の新札幌駅。ここから徒歩7分の位置に、東急不動産の新築分譲マンション「ブランズ新札幌」(札幌市厚別区、15階建て、総戸数55戸、専有面積57.03~71.16m2、11月下旬竣工予定)がある。北海道の分譲マンションは竣工後販売が一般的で、建設中の物件内に販売住戸をモデルルームとする販売方法を取る。
同物件は、専有面積64m2のコンパクトなタイプは、一次取得者である30代の3人家族のファミリー層やDINKSを想定。また、72m2のタイプは、戸建て住宅からの住み替え高齢者層をターゲットとしている。6月から第1期の販売を開始しており、平均坪単価は210万~220万円程度。契約率は約5割で、販売進ちょくは想定通りという。
同物件の販売担当である同社住宅事業ユニット販売部販売チーフの榎本卓司氏は、新札幌駅周辺は一次取得者が多いエリアで、契約の約7割が札幌市内、約1割が首都圏の北海道出身者だという。顧客からは「電気料金が高騰する中で、地元ではあまりないZEH物件である点や中心部への通勤利便性、首都圏からは新千歳空港へのアクセス性、『エスコンフィールド HOKKAIDO』の最寄りである北広島駅からも近く、将来性が見込める資産性や割安感」が評価されている。
札幌市中心部のマンションでは様相が異なる。自己居住の実需から、セカンドハウスや投資需要が加わる。タワーマンション「ブランズタワー札幌大通公園」(札幌市中央区、29階建て、総戸数179戸、専有面積37.82~116.57m2、1月竣工済み)は契約率が約75%で、販売の進ちょくは、想定通りとの評価だ。内訳をみると実需が4割、セカンドハウスと投資用が6割となっている。「物件価格が5500万円を超えると契約の道外割合が増える」(東急不動産)。
平均坪単価は297万円で、東京のマンションと比較すると割安感があり、札幌中心部のホテルの宿泊料の高騰を受けて、首都圏富裕層による旅行やゴルフなどのセカンドハウス需要を取り込んでいる。一方、投資については、賃料水準が価格高騰に追いついておらず、利回りが相対的に低く投資妙味が薄い。
同社によると、札幌市においても価格高騰に実需が鈍っており、今年7月の札幌市内のマンション供給数は前年同月比38%減、契約数が同42%減となっている。集客組数が減る一方、歩留まりは17%と前年同月の16%と変わらず、全体として弱含みなものの、価格高騰を受け入れられる層の動きは変化がないものと見られる。札幌駅近接の「ONE札幌ステーションタワー」などの再開発物件は、竣工前に完売している。
今後のマンション市況については、地価上昇や建設コスト上昇を受けて、二極化が進むと見ている。首都圏と比べて所得水準が低く、コストが吸収できる道外からの需要が見込める札幌市中央区を中心に展開していく方針を示す。
再エネ事業の重要地域に
同社が新たな事業分野として注力する再生可能エネルギー事業についても北海道での展開を拡大する。同社によれば、小樽市や松前町、釧路市などで風力発電や太陽光発電所を開発・運営しているほか、石狩市では再生可能エネルギー100%のデータセンターの開発を計画している。
特に、松前町については、19年に陸上風力発電所の運転を開始。将来的な洋上風力発電の建設も視野に入れているが、再エネ事業の展開を契機として、地域再生に地元自治体と連携して取り組む。今年3月には町と共同で、町の将来計画「松前町スマート・シュリンク SXビジョン」を作成。観光、漁業、畜産、再生可能エネルギー資源を活用した脱炭素への取り組みなど、産業の維持と活性化を目指すものとしている。
具体的には6つのプロジェクトを示し、各プロジェクトを同社と町が共同で推進するために、同社の「まちづくり」と再生可能エネルギー事業「ReENE(リエネ)」の知見とネットワークを活用する。また、11月には同社の発電所がある地域間連携型の教育イベントを実施する予定で、松前町と茨城県行方市の子供達との間でリモート授業を行う計画だ。
北海道の不動産市場を専門家はどう見ているのか。東京カンテイの井出武上席主任研究員は、「北海道は全国的に見て伸びている地点も多いが下落している地点も多い。良いところと悪いところが同居している状態だ」と分析。
その上で、「半導体企業の誘致がある千歳や、野球場がある北広島といった話題がある地域であれば道外からの投資も期待できるが、それ以外の地域では厳しい。住宅は実需が追いついておらず、投資資金は金利など経済環境の変化で状況が180度変わる」と見ている。また、空路による東京とのアクセス性という点では、新千歳空港との交通利便性が高いエリアも期待できるとしている。
『住宅新報 2023年9月19日号(https://www.jutaku-s.com/newsp/id/0000056672)より』
北海道の不動産市場は活況を呈している。2023年の路線価では、都道府県別で北海道は前年比6.8%増と、全国トップの伸び率を示した。まもなく公表される都道府県地価調査でも同様の傾向になるものと予想されている。札幌はもとより、ニセコは国際的なスキーリゾートとしての地位を確立しつつある。好調な市況を受けて、全ての事業分野を展開しているのが、東急不動産グループだ。同グループの事業展開を事例として、北海道の不動産市況を展望する。(桑島良紀)
同社が北海道で全事業分野を展開する背景として、30年の北海道新幹線の札幌駅への延伸や冬季五輪開催への期待が高まる中、札幌駅周辺を中心に市内で開発が進んでいるほか、同社グループの東急コミュニティーが管理する北広島市の新しい野球場「エスコンフィールド HOKKAIDO」の周辺でも地価上昇が続いていることを指摘。札幌市近郊部の住宅地、商業地にも地価上昇の流れが波及していると見ている。同社は、11月30日には札幌の中心部「すすきの」の玄関口で、ホテルや商業施設のほかシネマコンプレックスなどが入る「COCONO SUSUKINO」をオープンする。
札幌近郊は実需中心
JR札幌駅から電車で約9分の新札幌駅。ここから徒歩7分の位置に、東急不動産の新築分譲マンション「ブランズ新札幌」(札幌市厚別区、15階建て、総戸数55戸、専有面積57.03~71.16m2、11月下旬竣工予定)がある。北海道の分譲マンションは竣工後販売が一般的で、建設中の物件内に販売住戸をモデルルームとする販売方法を取る。
同物件は、専有面積64m2のコンパクトなタイプは、一次取得者である30代の3人家族のファミリー層やDINKSを想定。また、72m2のタイプは、戸建て住宅からの住み替え高齢者層をターゲットとしている。6月から第1期の販売を開始しており、平均坪単価は210万~220万円程度。契約率は約5割で、販売進ちょくは想定通りという。
同物件の販売担当である同社住宅事業ユニット販売部販売チーフの榎本卓司氏は、新札幌駅周辺は一次取得者が多いエリアで、契約の約7割が札幌市内、約1割が首都圏の北海道出身者だという。顧客からは「電気料金が高騰する中で、地元ではあまりないZEH物件である点や中心部への通勤利便性、首都圏からは新千歳空港へのアクセス性、『エスコンフィールド HOKKAIDO』の最寄りである北広島駅からも近く、将来性が見込める資産性や割安感」が評価されている。
札幌市中心部のマンションでは様相が異なる。自己居住の実需から、セカンドハウスや投資需要が加わる。タワーマンション「ブランズタワー札幌大通公園」(札幌市中央区、29階建て、総戸数179戸、専有面積37.82~116.57m2、1月竣工済み)は契約率が約75%で、販売の進ちょくは、想定通りとの評価だ。内訳をみると実需が4割、セカンドハウスと投資用が6割となっている。「物件価格が5500万円を超えると契約の道外割合が増える」(東急不動産)。
平均坪単価は297万円で、東京のマンションと比較すると割安感があり、札幌中心部のホテルの宿泊料の高騰を受けて、首都圏富裕層による旅行やゴルフなどのセカンドハウス需要を取り込んでいる。一方、投資については、賃料水準が価格高騰に追いついておらず、利回りが相対的に低く投資妙味が薄い。
同社によると、札幌市においても価格高騰に実需が鈍っており、今年7月の札幌市内のマンション供給数は前年同月比38%減、契約数が同42%減となっている。集客組数が減る一方、歩留まりは17%と前年同月の16%と変わらず、全体として弱含みなものの、価格高騰を受け入れられる層の動きは変化がないものと見られる。札幌駅近接の「ONE札幌ステーションタワー」などの再開発物件は、竣工前に完売している。
今後のマンション市況については、地価上昇や建設コスト上昇を受けて、二極化が進むと見ている。首都圏と比べて所得水準が低く、コストが吸収できる道外からの需要が見込める札幌市中央区を中心に展開していく方針を示す。
再エネ事業の重要地域に
同社が新たな事業分野として注力する再生可能エネルギー事業についても北海道での展開を拡大する。同社によれば、小樽市や松前町、釧路市などで風力発電や太陽光発電所を開発・運営しているほか、石狩市では再生可能エネルギー100%のデータセンターの開発を計画している。
特に、松前町については、19年に陸上風力発電所の運転を開始。将来的な洋上風力発電の建設も視野に入れているが、再エネ事業の展開を契機として、地域再生に地元自治体と連携して取り組む。今年3月には町と共同で、町の将来計画「松前町スマート・シュリンク SXビジョン」を作成。観光、漁業、畜産、再生可能エネルギー資源を活用した脱炭素への取り組みなど、産業の維持と活性化を目指すものとしている。
具体的には6つのプロジェクトを示し、各プロジェクトを同社と町が共同で推進するために、同社の「まちづくり」と再生可能エネルギー事業「ReENE(リエネ)」の知見とネットワークを活用する。また、11月には同社の発電所がある地域間連携型の教育イベントを実施する予定で、松前町と茨城県行方市の子供達との間でリモート授業を行う計画だ。
北海道の不動産市場を専門家はどう見ているのか。東京カンテイの井出武上席主任研究員は、「北海道は全国的に見て伸びている地点も多いが下落している地点も多い。良いところと悪いところが同居している状態だ」と分析。
その上で、「半導体企業の誘致がある千歳や、野球場がある北広島といった話題がある地域であれば道外からの投資も期待できるが、それ以外の地域では厳しい。住宅は実需が追いついておらず、投資資金は金利など経済環境の変化で状況が180度変わる」と見ている。また、空路による東京とのアクセス性という点では、新千歳空港との交通利便性が高いエリアも期待できるとしている。
『住宅新報 2023年9月19日号(https://www.jutaku-s.com/newsp/id/0000056672)より』